※これは映画「ニュー・シネマ・パラダイス」中の挿入話にヒントを得て書いたお話です
by Yumi (2019)
前回までのお話はこちらから → 椅子から去った王子
あらすじ
ある国にとても美しい王女がいて、窓の下の椅子に100日間すわることが出来た者と結婚すると言いました。たくさんの王子が挑戦したけれど、まだ誰も成功していません。白鳥の王子は75日目に椅子から転げて死んでしまいました。
3
ワタリガラスの王子
それ以来、しばらく椅子に挑戦する者はとだえました。
そりゃそうです。
どんなに美しい人と結婚できたって、死んでしまったら全然意味がありませんものね。
ところが、それからしばらくたったある日、とてもハンサムな王子がやって来たのです。
どのくらいハンサムかって、そりゃ、もう、すれちがう人だれもがふり返ってため息をつかないではいられないほどハンサムでした。
ただふしぎなことは、その王子のぼうしには黒い、ぶきみなワタリガラスの羽がさしてありました。
お城に入り、王女の美しさを目にした王子は、
「ううむ、なるほど、こういうことか」
と、つぶやいたきり、しばらく何も言いませんでした。
「どうじゃな、ワタリガラスの王子殿? わが娘を妻にとお望みかな?」
王様は得意顔です。
「はい。ぜひに」
王子は深く頭を下げました。
すると、王様の目配せを合図に、王女はまた、すらすらと、あの決まり文句を言いました。
「100日間、私の窓の下の椅子にすわり通したなら・・・」
「かならず、おおせの通りに」
王女が全部言い終わらないうちに、ワタリガラスの王子は頭を下げ、すたすたとお城を出て行きました。
次の日から王子は椅子にすわり始めました。
10日、20日、30日・・・。
王子のそばには王子がずるをしないか見張りが立ちました。
雨の日も、風の日も、焼け付くように暑い日も、こごえるような寒い夜も、王子は歯をくいしばって、じっと、椅子にすわり続けました。
50日が過ぎました。
王様は王子の様子を見にお城から出て来ると、
「まだ、半分ぞ」
と、馬鹿にしたように告げて、またお城に入って行きました。
70日が過ぎました。
王子はすっかりやつれ、かみはぼさぼになり、美しかった服も色あせてぼろぼろになりました。
けれども、その目だけはギラギラして、王女の窓をにらんでいます。
「あんなにハンサムだったのに、ひどいなりになったものだなあ」
お城の人々は気のどくがりました。
75日目を過ぎると、これまでで一番長くすわった王子を見ようと、あちこちから人々が集まって来ました。
「今度は本物かな?」
「いやいや、まだまだ」
人びとは王子を遠巻きにして、わいわい、がやがや、面白半分に見物していきます。
「どこの王子様かな?」
「さあな。しかし、大した根性じゃないか! 今度はいけそうだぞ!」
「そうかなあ?」
「じゃあ、かけようぜ!」
という具合で、王子が100日間がまんできるかどうか、人々の間でかけが始まりました。
王女の窓の下は日に日ににぎやかになり、物売りのテントも立って、お祭りさわぎになりました。
80日がたった時、どこからか年老いた女がやって来て、王子のひざにすがって泣きし始めました。
「もうこんなことはお止め。おまえまでも失ったら、母はどのようにして生きていけばよいのか」
「どうぞ、お帰り下さい、母上。私はどうしてもやりとげたいのです」
弱々しい声ではありましたが、王子はきっぱりと答えました。
すると、母親は王子をだきしめて言いました。
「雨風に打たれ、太陽で焼かれて、あんなに美しかったおまえがこんなにやせて骨と皮。
顔はみにくい火ぶくれになっているではないか。
そんなお前をそ知らぬ顔で見捨てておくような女と結婚して、どうなるというのか?
見た目は美しくても、あの王女の心は冷たい石くれ。
結婚したって、お前は決して幸せになれぬというのに」
母親がどんなにたのんでも、王子はがんとして、椅子から動きません。
とうとう母親はあきらめて、泣きながら去って行きました。
次回へつづく
※これは2019年に絵本・童話の創作Online「新作の嵐」」に掲載されたものを若干修正したものです。
「新作の嵐」へはこちらから→https://shinsakunoarashi.com/%e3%81%84%e3%81%99%e3%81%8b%e3%82%89%e5%8e%bb%e3%81%a3%e3%81%9f%e7%8e%8b%e5%ad%901-7/
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